2005年03月13日

まず、顧客を知ることから〜「Connective Selling」

何度か書いているが、私の仕事は営業ではない。けれど、仕事の上では営業部門の多くの人々と協力しなければ何事も進みにくいのは、いうまでもない。
そんなわけで、営業活動についてもきちんとした理解をしておきたいといつも思っている。営業部門での経験はあるのだが、なにぶん若い頃だったし”習うより慣れろ”という風土のために、短期間では胸を張って営業経験あり、といえるほどの知見はない。

とはいえ、ちまたにあふれる「営業本」は、ビジネス書の中でも成功者の自慢話と応用の利かない怪しげなノウハウばかり。タイトルを見ただけでげんなりしてしまうものが多い(余談ながら、営業本と双璧をなすのが最近やたらに多い起業本だ)。
なにか良いものは、と探しているとき、顧客との関係構築から大きく継続的な取引を獲得しよう、という本書が目にとまった。

本書で著者のJohn Timperley氏が何度も何度も繰り返すのは、顧客を理解することからすべてが始まる、ということだ。
そのビジネスがどういったもので、どんな問題を抱えており、目標はどこにあるのか。これらを的確に捉えない限り、どんな提案も売り手の押しつけに過ぎない。顧客の正確な理解からスタートし、それをどう解決できるかの提案に結びつけなければ良好な関係は築けない。

これは、スタッフ部門にいて売り込みを受ける立場となることの多い私にとっても、実に理解しやすい。
残念なことに、売り込みの前にこちらの状況やニーズをきちんと聞き出そうとしてくれる営業は実に少ない。ほんの10分ほど話しただけで、さっさと自社商品やサービスの特徴を解説し始めるかたが多いのだ。
こうなると、その商品やサービスが自分の問題解決にどう役立つのかを考えるのは、一方的に顧客である私の役割になってしまう。それはそれでかまわないのだが、ここには二つの問題がある。

ひとつは、私が営業との会話の中から理解しきれない解決策や応用方法については、活かされないままに終わることだ。本来の特徴を半分しか理解できずに断ってしまうこともあるだろう。
これは売る側にとっての機会損失になるだけでなく、私にとっても問題解決における回り道になってしまう。

もうひとつは、本書のテーマでもある顧客(この場合は私)と売り手との信頼関係が生まれないことだ。
私にとって見れば、一方的に商品の特徴をまくし立てる営業の言葉から必要な情報を選び取り、自分で理解し活用法を考え、金を払ったに過ぎない。これでは、次の問題解決が必要となったときに同じ営業に声をかけるはずなどない。
信頼関係が生まれなければ、目的がはっきりしないうちは声などかけないし、普段からコミュニケーションを取ろうとは思えない。売り手はどんな良い商品やサービスをもっていても販売機会を見つけられないだろう。

顧客を理解することとは、まず顧客の言葉を引き出すこと。
本書にはそのための事前準備や質問の方法、あるいは商談を進める上での障害の取り除き方など、さまざまな実践的なテクニックがまとめられている。これだけならノウハウ本と変わらないではないか、といわれそうだが、少なくとも本書には著者の自慢げな表情は登場しないし、ノウハウも応用が利くように一般化され整理されている。

実際に営業に携わるかたにとっては、当たり前のことが並んでいるのかもしれない。
しかし、私のように営業という仕事について知りたいと思い、同時に顧客として日常つきあっている営業に物足りなさを感じているならば、非常に良くまとまった本ではないかと思う。

 Connective Selling : The Secrets of Winning 'Big Ticket' Sales
 John Timperley 著
 Capstone 刊

英語によるレビューはこちら

Posted by dmate at 2005年03月13日 14:43 | TrackBack
Comments

こんにちは。
私はシステムの営業をやっています。
最近、質問営業・売込まない営業をテーマに勉強を続けていますので、非常に勇気付けられました。
顧客のを知ること、そして何より、顧客をより知りたいと思う姿勢、非常に重要ですね。

Posted by: ニタ at 2005年03月13日 16:59

システム営業では、顧客を知ることが特に大切だといえそうですね。
売りっぱなしで一回限りのつきあいで良いならともかく、顧客の生涯価値をいかに獲得するか、いかにリピート顧客となってもらい、継続取引で利益を上げるかが、商品やサービスを問わずに重要になっていますから、たとえコモディティ商品であっても顧客を知ることの重要性は、同じなのだろうと思います。
今後ともよろしくお願いします。

Posted by: dmate at 2005年03月15日 22:05
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