2005年03月06日

顧客インターフェイスの設計と運営〜「Best Face Forward」

2月28日に「あと10ページ」と宣言したは良いが、そこからなかなか手をつけずにいた「Best Face Forward」をようやく読了。
最後の10ページは顧客インターフェイスを評価するための書式などもあって実質7〜8ページの分量だっただけに、就寝前の30分ほどを読書に充てれば良さそうなものだったのだが、けっこう時間をかけてしまった。
本書の内容は実にシンプル。企業の顧客インターフェイス、コールセンターや店舗、あるいはWEBサイトなどでのサービスを分析した上で、これからは効率性を高めながら競争力の源泉となる質の高いサービスを実現するために、コンピュータや機械によるインターフェイスと人によるそれとをうまく組み合わせ、それぞれの長所を活かせ、というもの。こんなふうにまとめてしまってはいささか身も蓋もないのだが、本には多くのアイディアを羅列したタイプと、ひとつの主張を掘り下げるものとがあって、本書は後者だったということだ。

製品自体による差別化が極めて難しいことは、私たちが日々実感していることだ。特に日本の市場では、ある企業が成功させたアイディアはあっという間に他社によって模倣され、極めて短期間のうちに価格競争へと陥っていくのが常だ。このスピードが絶えざる技術革新を呼んでいることも事実だが、いずれにせよ優れた製品を持っていても、決定的な差別化要因とはなりにくい。
著者たちは、これからの企業間競争での優位性を築くのは顧客との関係構築と維持をする力にあるといい、そのカギとなるのが優れた顧客インターフェイスの設計と運営、そして統合にあるという。

では、優れた顧客インターフェイスとは何か?
著者はその要素を「Physical」「Cognitive」「Emotional」「Synaptic」の4つの観点と、インターフェイスが人によるか、機械によるか、あるいは両者のハイブリッドによるかという主体によって分析していく。
優れた顧客インターフェイスの多くは、これまで人によるものが支配的だった。代表的なものは一流ホテルの接客などだ。しかし、人によるサービスは人材の確保と育成にコストと時間がかかるため、一定の規模以上に広げることは難しい。また、その質の維持も極めて困難な上に、場合によっては人が機械のごとく動くことを強要する(ファーストフードにおける機械的な接客はまさに典型だ)。
臨機応変な判断や、顧客の特性に応じたパーソナライズしたサービス提供など、人的なサービス提供が優れた場面は少なくない。逆にいえば、それ以外の定型的なインターフェイスの運営は、機械を主体とすることで品質の維持とコストの削減が可能となる。日進月歩のテクノロジーは、機械が人のように行動することを可能にしている。これまで人によるものとされてきたサービスのインターフェイスに機械を持ち込み、その再設計と運用の改革を行うフロントサービスのリエンジニアリングが、本書の主題だ。

本書の締めくくりでは、顧客インターフェイスと評価する軸として「Efficency」「Effectiveness」「Consistency」「Adaptability」の4つが示される。
これらのうち、私が最も大きな問題と思っているのは「Consistency」だ。ほとんどの企業や組織は複数の顧客インターフェイスを持ち、それぞれが最大の効率性と効果を目指して設計され、運営されている。しかし、それらが首尾一貫し、相互に連携して動いている例は少ないだろう。しかし、これこそが顧客がその企業との関係性を実感できる最大のポイントだ。
残念ながら、多くの顧客インターフェイスはそれぞれが別の組織によって運営されているのが現状だろうし、それでは顧客の視点からあるべき連携が実現される可能性は低い。マーケティング志向、顧客志向を否定する組織は少数だろうが、その運営や組織設計が顧客を起点として行われているのもまた少数だろう。
顧客インターフェイスのリエンジニアリングは、単にコールセンターや店舗の運営や道具立ての問題ではなく、組織の構造や運営プロセスの再設計を要求する、極めて大きく、しかも重要なテーマだ。

 Best Face Forward:Why Companies Must Improve Their Service Interfaces with Customers
 Jeffery F. Rayport & Bernard J. Jaworski著
 Harvard Business School Press刊

Posted by dmate at 2005年03月06日 17:46 | TrackBack
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