2005年02月18日

ビジネス関連洋書の店頭販売は難しいのだろうか

首都圏の書店で、洋書といえば丸善だろう。
高校の修学旅行で東京に来たとき、グループメンバーを必死で説き伏せて神田での自由行動時間を作った。SFファンだったのでハインラインやニーブンを洋書で読んでみたい、田舎では実物を見ることさえできなかった「SF Encyclopedia」を買いたい、と思っていたのだ。しかし、丸善に勇んで入店したは良いが圧倒的な物量にとまどい、結局目指す本を見つけられずに目についたペーパーバックを数冊買って逃げ帰ったつらい思い出がある。
店員に尋ねれば良さそうなものだが、小遣いも限られていたので実物を見て高かったら買えないし、わざわざ訊いておいて買わずに買えるのは恥ずかしかった。まあ、高校生なんて自意識の塊なのだ。
行動範囲の関係で、最近多く利用する丸善は、丸の内の「OAZO」にできた店だ。いまでは洋書コーナーでも堂々としてはいるのだが、実際に洋書を購入することは少ない。
理由はもちろん、Amazonがあるせいだ。

先日も丸善のビジネスコーナーでいくつか気になる本を見かけた。ものによって価格はさまざまだが、おおむね3千円〜5千円程度。
数冊持ってレジへ向かおうと思ったのだが、ふと気がついて喫茶店に移動し、PDAでAmazonのサイトで検索してみるといずれも千円以上安いではないか。
もちろん、どれも1500円以上はするので送料は無料。重い本を自宅まで持ち帰る手間もない。問題があるとすれば、Amazonでは納期のかかる本がいくつかあったことだが(だいたい数週間から2ヶ月ほど)、1冊読むのに2週間はかかるのだから五月雨式に到着したってなんの問題もないのだ。
これでは、さすがに店頭で買う気にはならない。

また、私が出張時に良く立ち寄る書店のひとつが、名古屋駅ビルの高島屋12階にある三省堂書店だ。ここの洋書コーナーはそこそこの規模があるのでたまに購入していたのだが、Amazonとの価格差はやはり同様。
先日、書棚がごっそりとからになっていたのでどうなることかと思っていたところ、従来は棚ふたつ分であったビジネス/経済/経営系の書籍が約3分の1程度に減らされてしまっていた。
以前は店員のお薦めコメント付きでそれなりに難解なものも含めて陳列されていた平台も、最近流行の成功本の原著ばかりが目につくようになってしまった(この件は別に書こうと思っているが、私はいわゆる「成功ノウハウ本」が嫌いなのだ)。一言でいえば、ビジネスやマーケティングに関する書籍を買う場所としては、なんの魅力もない店になってしまったのだ。

もちろん、便利な場所に店舗をつくって、膨大な書籍の中から売れそうなものを選び出して仕入れ、店頭に在庫して対面販売するのはコストがかかることだとは理解している。無店舗で顧客との対応をすべてPCで行うAmazonとはコスト構造があまりに違いすぎる。
けれど、一人の消費者としては、やはり同じものが安く便利に買える手段があるのに、わざわざ千円多く支払って書店で買う理由は見いだせないのだ。
丸善にオンラインショップがあることも知ってはいるが、やはり価格差はかなり大きい。また、品切れ中でいつ入荷するかが明記されていないものも少なくない。これは店頭販売とオンライン販売という業態の差ではなく、顧客サービスの問題だ。
価格差といえば、雑誌ではさらに大きくなってしまう。一例を挙げれば、私が定期購読している「Harvard Business Review」は年間購読料が送料込みで$165($1=105円として1,575円/冊)なのに対して国内の書店で買うと3千円ほどもする。
雑誌は書籍よりさらに在庫リスクも高く、事情は理解できるのだが、やはりこの価格差は如何ともしがたい。
なんにせよ、理由の如何を問わず、低いサービス水準で高い価格をつけているのが、日本の洋書販売の現状なのは確かだ。ひと頃に比べれば円とドルとの換算レートもまともな水準になっているものの、Amazon上陸後はさしたるインパクトはないと思う。なお、実際には個別に見ていくと丸善の価格がAmazonを下回っているケースもある。しかし、それほどの高額品ではないのでいちいち調べ上げて購入するのではなく、全体として高サービスで低価格というポジションを獲得したAmazonの優位は当面揺るがないだろう。

丸善や三省堂を責める資格は、私にはもちろんない。
なんといっても、私自身がAmazonでばかり買い物をしているのだ。多くの消費者がこうした行動をとっているなら、洋書取り扱いの書店が「ビジネス系は売れないから縮小しよう」「在庫リスクも高いし、この程度の利幅は必要」と考えるのは、当然なのである。
洋書の需要というのは、大学などの研究期間や研究者によって支えられているのだろう。これらの顧客と書店との関係が変化してきているのかどうか、私にはわからないが、おそらく店頭在庫を探すというよりは、カタログでの注文が主だろうと思う。店頭販売の重要度はそれほど高くないように思える。
このままでは店頭でのビジネス洋書販売は消えてしまい、カタログ販売のみになってしまうのかもしれない。買わずに期待だけするのははなはだ身勝手なのだが、書店という場所が好きな私にとっては寂しいのである。

本は実際に手にとって中身をめくり、納得して買うというかたは多いはずだ。Amazonもその必要性はよくわかっていて、Amazon.comでは内容を数ページ”立ち読み”することもできる。また、立ち読みして確認する行動の代替サービスとして、読者のレビューを読むこともできる。
となれば、店頭は図書館、ないしはショールームと位置づけてしまい、見本品を置く場所としても良いのではないかと思う。実際の売買はオンラインショップにのみ接続できるWEB端末を置くのだ。バーコードリーダーをつけておき、スキャンすればショッピングカートに入れたり、レビューや書店員のお薦め情報などが簡単に見られるようにするのも良いだろう。翻訳が出ていれば、その情報を見せて同時購入を勧めることも容易だ。
書店という場には魅力がある。Amazonとの価格差が10%内外であるなら、私は喜んで乗り換えるのだが、いかがなもんだろうか。

<追記>
同じように、書店でビジネス系の洋書を選びたい、とお考えの方がいらっしゃったので、トラックバックを。
「なぜビジネス書を売らないのですか?」(海外ビジネス書に学ぶ!)

Posted by dmate at 2005年02月18日 20:16 | TrackBack
Comments

はじめまして。竹永です。
ご紹介ありがとうございました。

たしかにアマゾン、いいですよねー。安いし。
私ももっぱらアマゾンです。
本屋でザーーーーっと立ち読みするのもいいもんですよね。国内でそれができれば・・。っていうのはまだまだ贅沢なんですかね?おっしゃられていたとおり、たまに見かけると成功本の原著だったりするし。なんていうか、浅いんですよねえw。
ではまた。

Posted by: 竹永 at 2005年02月19日 16:49

竹永さん、こんにちは
書店で本を探すのは、Amazonとはちょっと違った楽しみなんですよね。
次に読む「Connective Selling」も、もとはといえば丸善の店頭で見つけたものです。本棚をじっくりと見ながら”呼んでくれる”本を探す楽しさは、ネットとは別物だと感じます。
洋書を意識して見始めて感じるのは、装幀が翻訳本になると突然やすっぽくなってしまう場合が多いことですね。単に好みの問題ではなく、手っ取り早くノウハウだけを採り入れようとする日本の読者層のレベルを感じてしまってちょっと残念です。
では、これからもよろしくお願いします。

Posted by: dmate at 2005年02月20日 19:04
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