2005年02月04日

スペシャリストとジェネラリスト

HBR(Harvard Business Review)2003年12月号の記事から、Jay A. Conger氏とRobert M. Fulmer氏による「Developing Your Leadership Pipeline」を取り上げる。
この記事のテーマは、「Succession Planning」すなわち経営者の後継者問題と、「Leadership Development」つまり組織としてのリーダーシップの開発。このふたつは別個の課題ではなく同じものであり、人事部門に任せてはならない全社課題であるというのが、著者たちの主張だ。

記事の冒頭では、ふたつのCEO後継選択の失敗事例が紹介されている。いずれのケースも、特定の経験とスキルに優れた幹部をCEOに据えたものの、企業が直面した問題をうまくハンドリングできなかった。CEOの職務を果たすためには、企業への忠誠心や長い経験、あるいはマーケッターとしての実績だけでは不十分なのだ。
必要なスキルや知識は、財務や買収・合併、広報、組織内の合意形成など多岐にわたる。いわば、CEOとは究極のジェネラリストということができるのだろう。
もちろん、一人ですべての機能を掌握し指揮することは不可能で、多くのスタッフや幹部を使うのは確かだが、組織運営の全般を見渡す知識を持つことはCEOに不可欠の要素といえる。
それゆえ、CEOを務められる人材を組織内で計画的に育成することなしには、CEOの交代が企業にとって極めて大きなリスク要因となってしまう。

アメリカ企業といえば、スペシャリストの集合体という印象が強い。
たしかに、明確なジョブ・ディスクリプションを持ち、個人の責任と権限がはっきりと区切られているのが、特に組織の最前線では一般的だろう。日本よりもはるかに多様性の高い社会では、業務上の責任と権限の明確化は避けて通れない。
だからといって、経営幹部までがスペシャリストで良いと考えるのは早計なのだろう。実際にはスペシャリストが多く、それゆえに紹介されているようなCEO選びの失敗も起こるのだろうが、企業トップを目指すものはスペシャリティと企業全体を見通す経験や知識とを兼ね備えているべきなのは、洋の東西を問わない。
そして、こうした人材を計画的に育成することは、企業全体のリーダー人材の蓄積にもつながる。

記事で紹介されるいくつかの企業では、さまざまな制度やシステムを通じて次世代のリーダーを計画的に育成することを、企業にとっての基本的な機能と位置づけ、人事部門だけではなくトップの役割として動かしている。
著者たちはこれを機能させるための5つのルールを提示しているが、いずれも計画的な人材育成のために必要不可欠な要素といえる。
こうした次世代経営者の育成システムもまた、以前取り上げた「Deep Smarts」の継承と同じく、日本企業では意識せずとも行われてきたことだったといえるだろう。ライン部門の経験を積ませてから企画部門へ異動し、さらには管理者や事業責任者へとステップアップする日本企業の典型的なキャリアは、経営者の育成システムとしても機能していたといえるだろう。

しかし、近年日本企業における人材育成の方針はスペシャリスト育成へと大きくシフトしてきているように思える。
もちろんそれ自体は悪いことではないが、ビジネスパースン自身もジェネラリストよりもスペシャリスト志向を高める中で、企業全体に目を届かせる経営者の計画的育成システムは、意識して整備し強化しなければならない機能のひとつだ。
多くの企業が目指す人材育成のパターンに、スペシャリティとジェネラリストとしての素養とを兼ね備えた「T型人材」がある。しかし、これはそう簡単には実現しない。ジェネラリストといっても、過去の経験がそのまま役立つほどマーケットの動きは遅くないし、専門分野といっても少し油断しているとあっという間に知識やスキルが陳腐化してしまう。
人材育成とリーダーシップ開発について、しっかりとした見識を持ち企業の課題として継続できる組織こそが、将来の成長を約束されているといっても過言ではないだろう。近年「インタンジブル」が注目されているのは、その現れでもあるように思える。

Posted by dmate at 2005年02月04日 22:40 | TrackBack
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