2005年01月31日

知恵に報いる組織

先日ご紹介したおすすめサイトのひとつ、「The McKinsey Quarterly」の記事「Making a market in knowledge」を紹介する。
なお、このサイトでは閲覧者には3種類あり、Visitorは各記事のサワリだけ(Article at a glance)が読める。無料で登録できるMemberは、多くの記事をオンラインで読むことができる。そして、有料のPremium Memberは、すべての記事を読むことができるという仕掛け。実際には、「これは」という記事はPremium Memberでないと読めないことも多いのがちょっと悔しいところ。

ナレッジマネジメントという言葉が流行ったのは数年前のことだったか。
元はといえば、野中郁次郎氏などの研究成果として「知識創造経営」が提唱され、その中で「暗黙知−形式知」の相互変換プロセスが示されたのがベースとなり、ITブームの中でのナレッジのデータベース化やイントラネットでの共有化など具体的なインプリメンテーションとしてのナレッジマネジメントシステムがもてはやされたのだろうと思う。
ただ、多くの経営手法のブームがそうであったように、ナレッジマネジメントもIT産業の商売のネタにはなったが、大きな成果にはつながっていないのが現状ではないだろうか。私が認識する限りでいうと、システムはできてもそこに自身の業務上のノウハウや成功事例を形式化して登録するモチベーションが十分には働かず、肝心のナレッジに魅力がないこと、あるいは、ある程度の情報が登録されても自身に必要な情報にたどり着くのが容易ではないことなどから、活用度は低いままだ。
情報がほしい側からすれば、いちいち検索するよりも心当たりの相手に直接電話をかけた方が早いし、情報の発信者としても時間をかけて知恵や知識をまとめるよりも、個々の質問や相談に対応していた方が簡単だ。一対一の知識伝達プロセスは非効率だが、個人にとって見れば自分の仕事が立ちゆかないほどの相談が舞い込むわけでもないのがほとんどでだろう。

個人にとってはそれで良くても、組織全体で考えれば、一対一でしか行われない知識伝達の非効率は明らかだ。これが全社レベルで行われるようになれば、これまで有効な情報チャネルをもたなかったメンバー間の伝達が活性化され、組織全体としてのノウハウやスキルは大幅に向上するだろう。
もちろん、ナレッジマネジメントシステムはこれを実現するためのものだが、そこには発信者へのモチベーションと、受信者にとっての検索容易性が欠けていたのは前述の通り。情報検索性はシステムの改善でなんとでも解決できようが、人のモチベーションはそうはいかない。

組織内でのナレッジの流通に関して、市場原理に基づくシステムを構築せよ、というのが本稿の主題だ。
一対一の対話による流通から、ナレッジマネジメントシステムが本来目指した組織規模の知識流通を実現するために、価値の高いナレッジには大きな評価が集まり、提供者が報いられる仕組みを組織として実現せよ、というもの。この肝として、発信すべき情報の基準やプロトコル、流通に関する規制などを設定してマネージし、流通を促進するMarket Facilitatorを部門として設置するという提案がなされている。
たしかに、個々人が勝手にナレッジを登録する従来の運用では、ナレッジの質や情報の充実度に大きな格差が生じ、結果として利用者にとっては使いにくいものとなってしまう。同時に、どこの誰に対して発信し、どう使われているのかが実感できない仕組みでは発信者のモチベーションは高めようがない。ナレッジの市場を運営する部門を設置し、その流通に一定の枠組みを設ける試みは、現在のナレッジマネジメントがもつ課題へのひとつの有効な回答といえるだろう。

ナレッジの発信者に報いるといっても、それは単純に金銭を指し示すわけではない。
むしろ、利用者からの賞賛や認知といった、金銭には置き換えられない評価もまた、発信者にとってのモチベーションとなることが本稿でも強調されている。これは、組織内で相談を受けることの多いかたには実感として理解できるだろう。私たちは金がほしくて相談に応じるのではない。他社の役に立ち、評価を受けることは自分自身の評判を確立できることにつながるし、それはキャリア上も有益であることが多い。
ナレッジが流通する市場のFacilitatorを部門化することは、価値の高いナレッジを発信するメンバーを、組織内で認知することにもつながる。個々人の”押しの強さ”や”立ち回りのうまさ”によって認知度や評価に差ができる現状への対策にもなるだろう。

重要なことは、組織内で多くの相談を受け、価値あるナレッジを発信できるメンバーを評価し、報いる姿勢を組織として明確にもつことだ。Facilitator部門の設置はその表れでもある。
HBRに掲載された「Deep Smarts」でもそうだが、個々人がもつナレッジを組織に行き渡らせ、継承し発展させられれば、組織全体としての問題解決力は大きく向上するだろう。はやりの言葉でいえば、組織の見えざる資産、インタンジブルのひとつである人材の質は、こうした努力によって積み上げられるものだ。

Posted by dmate at 2005年01月31日 21:01 | TrackBack
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