2005年01月29日

ビジネスを見通すことの大切さと難しさ〜「The Ultimate Marketing Plan」

個人商店という言葉は、企業では否定的に使われることが多い。
チームや組織で仕事を進めることができず、ノウハウを自分の中にため込んで自らの成功だけを追求するイメージだ。実際、こうした人物はそこここに見受けられるし、企業として仕事をする上では問題を起こすことが多いのも事実だ。
とはいえ、事業の一貫性を確保しようとすれば、いちいち他部門や同僚の意見など聞いてはいられないのもまた真実。特に起ち上げ間もない新規事業では、多くの人々の意見を聞くほどに混乱が増し、事業のフォーカスがぼやけてしまうことが少なくない。ビジネスが大きくなる過程で個人から組織へと主体が広がることは必要だが、同時にビジネス全体をきちんと見通すリーダーの存在は規模の大小によらず貴重だ。

本書はまず、自分自身のビジネスが顧客に伝えるべき特徴・魅力ある提案とは何かを明確にするところからスタートする。
著者は、”自分がこれから入ろうとしているビジネスで、競合他社がどんなメッセージを顧客に届けようとしているか”を、たとえば電話帳の広告から抜き出してみることを勧める。それらのほとんどが似たり寄ったりのメッセージを発していることがわかれば、同じことをしていてはビジネスの成功などおぼつかないこともわかる。
しかし、このような基礎的なことでさえ、私たちは仕事の中で実践できていないことが多い。むしろ、競合他社の提案をなぞるように商品やサービスを設計し、同じ広告、同じ価格を同じ顧客に向けて届けようとしている。結果はおきまりの価格競争で、こうしたビジネスで利益を上げることは容易ではない。

私たちがこのような”間違い”を繰り返す最大の理由が、ビジネスの基本に関わる意思決定にあまりに多くの関係者の意見を取り込んでしまうことになると、私は思っている。
多くの意見を聞けば自然と角が取れて丸くなり、賛同者や協力者が増える一方で肝心の顧客への提供価値からは特徴も魅力も失われていく。ビールでも日用雑貨でも、あるいはデジタル家電でも、日本の企業が作る商品やサービスがどれも似通っていて、それゆえ価格とイメージ程度しか差別化の要素がなくなっている原因はここにあるといっても良い。

本書は、顧客に提供する価値を定め、ターゲットを明確にし、メッセージを届け、顧客を守り増やすための諸活動(いわばマーケティングの全体像)を幅広く、順を追って解説している。
まさに一人二人で行うスモールビジネスであれば、この過程をすべて見通して実行することが成功の基盤となることは間違いない。そして、ビジネスの規模が大きくなり関係者が増えても、基本は同じなのだ。

組織内において個人商店として活動することのデメリットは確かに大きい。なるべく多くの協力者を確保することなしには、社内の調整や政治に疲れ果てて肝心のビジネスに振り向けるエネルギーが削がれてしまうこともしばしばだ。
それでも、ビジネスを成功させる上では、リーダーがその全体像を見通し、一貫性をもってすべてのマーケティング活動を統合することが欠かせない。組織の力を活用しながらも、ビジネスを完全に掌握しコントロールすることが、新規事業の成功には不可欠だ。

本書のようにマーケティング活動全般を解説した本は、ともすれば個人事業主や起業家に向けたものと捕らえられがちだ。しかし、私は本書は組織にあってビジネスの責任者となる人々こそが読むべきと思う。

 The Ultimate Marketing Plan (Second Edition)
 Dan S. Kennedy
 Adams Media Corporation

Posted by dmate at 2005年01月29日 17:29 | TrackBack
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