2005年01月28日

究極の指標とは?

HBR(Harvard Business Review)の記事から、印象に残ったものや参考になったものを紹介してみようと思う。
今回の記事は「The Only Number You Need to Grow」、コンサルティングファームであるベイン&カンパニーのFrederick F. Reichheld氏によるもの。2003年12月号に掲載された。
日本版の「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」の2004年6月号に邦訳記事が掲載されているので、すでに読んだかたも多いだろう(タイトルは「顧客ロイヤルティを測る究極の質問」)。

内容は極めて単純で、顧客の満足度、もしくはロイヤルティを測るためには多くの質問を投げかける必要はなく、ほとんどの業界においてたったひとつの質問で事足りる、という主張。
その質問とは、"How likely is that you would recommend [company X] to a friend or colleague?(この会社/商品/サービスを友人や同僚に紹介したいですか?)"という、実にシンプルなものだ。この質問ならば、購買頻度が低い耐久消費財でも、最寄品と同じように顧客の満足度と企業業績とを関連づけて捉えることが可能で、普段から顧客満足度や顧客ロイヤルティについて関心を持つ方であれば、この段階で膝を打つのではないだろうか。

この論文で面白いと感じたのは、上記の質問の結果を指標化する上での評価基準だ。
この質問は、”ぜひ推薦したい、紹介したい”とする10点から、”まったくそうしたくない”とする0点までの11段階で顧客の評価を受ける。この上で顧客を10点もしくは9点をつけた"Promoters(推薦者)"、8点ないし7点をつけた"Passively satisfied(まあ満足な中立者)"、そして6点以下の"Detractors(中傷者)"に分類する。ここで大切なのは、推薦者を9ないし10点というきわめて推薦/紹介意向の高い顧客に限ることだ。
良くある調査では、5段階評価の上位二つをあわせて満足している顧客といった位置づけを与えてしまいがちだが、この論文はそうではない。推薦者をカウントする条件を厳しくすることで、本当に業績の向上につながる指標をつくろうとしている。口先で推薦すると言っても、実際に推薦してくれるのは一握りであることをきちんと反映させているわけだ。
この推薦者の比率から、中傷者の比率を差し引いた指標が、「正味の推薦者比率」という新たな指標となるわけである。
仮に推薦者が35%、中立者が45%、中傷者が20%の企業があれば、正味の比率は15%となる。

こうして分解してしまえば、極めて強く推薦/紹介をしたいと思う顧客を増やし、同時に悪い評判を流す顧客を減らすのだから、顧客満足度を業務管理の指標として採用するのとさして変わらない。
しかし、えてして顧客満足度による目標設定や管理は、些末な管理指標の設定と実行で現場が自己満足してしまう結果をもたらす(たとえば、”電話は3コール以内に取り、きちんと名乗ります”など。こんな当たり前の行動で顧客満足度が向上し、業績が上がると本気で思っているなら、その管理者は相当おめでたい人物だ)。
むしろ指標は単純なものにして、商品やサービスの品質を高めるという、ごく当たり前だが本質的な目標を定め、管理することが必要なのだ。

顧客満足度が経営の重要な要素として語られるようになってから10年以上になる。
多くの企業が多大な費用をかけて調査を行っている割には、成果に結びついたという話はそれほど多くはない。調査方法にも、あるいはその伝達にも、そして肝心のアクションプランへの落とし込みにも、それぞれ問題を抱えているのだろう。
顧客満足度の向上、顧客ロイヤルティの向上がなぜ業績を高めるのか(もちろん、顧客獲得コストを冷静に考えれば理解できることなのだが)、そのためにはどう優先度をつけ、日常の活動に反映させていくのかといった基本的な活動として根付かせることが必要だ。こうしたシンプルな指標と、顧客行動と企業業績に関する理解は、その実践のために非常に役立つのではないだろうか。

Posted by dmate at 2005年01月28日 21:15 | TrackBack
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