2004年11月04日

牛丼の味

アメリカ滞在中に、近所に「吉野家」があるというので立ち寄った。
私は舌が貧しいのか、アメリカに1,2週間滞在していても食事で音を上げるということは全くない。もちろん、風邪をひいたりなど体調を崩せば別だが、チーズとトマトはもう嫌だ、といった状態にはならない。
そんなわけで、旅行中に日本食が恋しいだのうどんが食べたいだのといった感覚がまったく理解できないのだ。今回もニューヨークの街中で大きく「うどん」と書かれた店を見かけたが、中は日本人観光客で一杯だった。せっかくの短い滞在なのに、なぜそううまいとは思えないうどんを食わねばならないのだろう。所詮は人ごとなので口を出すことではないのだが、もったいない、と思ってしまう。
とはいえ、今回の吉野家に関しては、日本初の食べ物でありながら現時点では日本で食べられないこと、そして再開の見通しも立っていないことから、一口乗ってみたもの(団体行動の日だったので、私が嫌だといっても食事場所が変わる可能性がなかったのも事実)。

さて、私が頼んだのは牛丼のラージサイズ、サラダ付き、ドリンクは日本茶。これでたしか$7〜8だった。
さすがはアメリカの「ラージサイズ」で、おそらく日本の「大盛り」の2杯分程度の量はあったろう。薬味コーナーにはおなじみの紅ショウガと唐辛子があったので大量に振りかける。残念なことに生タマゴの販売は行われていないので私にとっての”吉牛”の再現はできなかったが、味はほぼ同じあの牛丼であった。
ちなみに”つゆだく”を頼みたいときには”More juice, please”とでもいえば良いらしいので、機会のある方は試してみていただきたい。つゆだくではない、普通の状態では、少々汁気の足りないものだった(ご飯が堅めだったことも関係しているだろうが)。

なお、今回私が行った店は、私たちが慣れ親しんでいる長いカウンターを持った店ではなく、良くあるファストフード店のレイアウトであった。これがどの店も共通なのか、たまたま空き家になったハンバーガー店か何かを改装する際に使えるものを残した結果なのかはわからないが、注文した牛丼を席に運んで食べる形式だ。
この形の違いだけでも、なんとなく味わいが違って感じられるのも事実。おまけに店内はあのオレンジ色ではなく、さして特徴のないファストフード店の内装だけに、やはり感じが違う。
本来ならば写真を見ながら細かく描写したいところだが、店内には撮影禁止の張り紙がしてあり、注文の前に「この店では写真を撮らないでください」と注意を受けるという神経質な対応で、残念ながら一枚も写真がない。
写真撮影を禁じる理由があまりよくわからないのだが、吉野家の方針でないならば、もしかするとこの店舗がマニュアルを無視した作りをしていて、証拠を残したくないのかもしれない、と想像もできるが、事実はよくわからないままだ。

考えてみると、アメリカ産牛肉の輸入を禁じたからといっても人の移動を禁じられるわけではなく、一定期間アメリカに滞在すれば牛肉を食べないでは済まされない。アメリカ旅行などさして珍しいことではないし、輸入禁止措置があろうと、ビーフジャーキーくらいは持ち込まれているだろう。
BSE問題が発生してしまった以上、納得できるだけの対策を相手にとらせねば格好がつかないのも確かなのだろうが、では他の食品については絶対に安全なのかといえば、おそらく断言はできまい。妥協できる範囲がどこまでなのか、専門家ならぬ私には定かなことはいえないのだが、双方条件を出し合い交渉し、残っているのは役人の面子なのではないのか。ぼちぼち解決の時期くらいが見えてこないと、日本人は吉牛の味を忘れてしまうんじゃないか。
食べ物などいくらでもあるし、吉野家の牛丼がなくなってもそれほど困るわけではない。事実、私たちは吉牛なしでもう半年以上も暮らしている。それでも、役人の面子を守るために特定の食べ物を失うのは、あまりにばからしいように感じられる。
アメリカの街中であっけらかんと営業を続けている吉野家で牛丼を食べながら、食の安全は大事だが、もともと100%などないものに保証を求めることが、ナンセンスなのではないかと感じたのであった。

Posted by dmate at 2004年11月04日 19:32 | TrackBack
Comments
Post a comment









Remember personal info?