2004年09月21日

決算書分析は難しくない

「HPO:個人的な意見」で決算書分析に関する書評が掲載され、大いに頷く点があった。
そう、決算書を読むことなど、決して難しいことではないのだ。ほとんどのビジネスマンが決算書を読むときの目的は、企業の競争力分析など戦略構築の参考情報とするか、取引の開始や拡大にあたっての信用状況の確認といったものだろう。なにも巧妙に仕組まれた粉飾決算を見抜けとか、買収のために企業価値を算定せよといわれているわけではない。
多くのビジネスマンが必要とされる目的に応じた決算書分析とは、パターン化された一連の数字の確認でしかないとさえいって良い。

ところで、私は先ほどから「決算書分析」と書いてきた。
上記のweblogで取り上げられている書名は「経営分析の初歩が面白いほどわかる本」なのだが、世間では決算書を読み込んでその会社の状況を理解する行為を「経営分析」と呼ぶことが多い。
けれど、私はあえて「決算書分析」と呼ぶ。企業は決算書に表れた数字だけで理解できるものではない。経営者や社員と面談し、仕事ぶりを拝見し、倉庫や事務所を見て取引先を訪問し...という一連の作業によって初めて、明確なアウトラインが把握できるものだと私は思っている。経営分析とはこうした活動を指すもので、決算書を読むことはその一部に過ぎない。決算書に目を通しただけで経営がわかったと思いこむのはかなり危険だ。

私が簡単だ、というのはもちろん決算書分析のほう。経営分析ともなれば、対象企業の協力なしには困難だが、決算書ならば公開企業なら簡単に入手できるし、フォーマットもほぼ統一されているから慣れてくれば極めて短時間で内容の把握が可能になる。
良くある解説書を開くと、冒頭から「総資本経常利益率とは」「総資本回転率とは」「売上高総利益率とは」と、経営指標の計算式を意味合いが延々と並んでいるものだが、こうした手法を私はお勧めしない。指標の計算は決算書分析の大切なステップのひとつなのは確かだが、どうしても細かな数字へのこだわりが全体観を見失わせてしまいかねないからだ。

冒頭にも書いたが、決算書を分析する目的は取引上の信用情報の把握や競争力分析など、おおざっぱにいえば”儲かっていて、つぶれにくい会社なのかどうか””そしてその理由は何か”を把握することにある。逆にいえば、それが把握できる最小限の情報さえ手に入れば、細かな計算などはしなくて良いといってかまわない。
こうした用途での決算書分析で、まず私がお勧めするのは「100%BS」を書くこと。BS(貸借対照表)の5つの要素(資本、固定負債、流動負債、固定資産、流動資産)を金額ではなく総資本(総資産)に占めるパーセンテージに直して、おおざっぱでよいから図示するものだ。少し慣れてくればわかるが、この図を見れば決算書分析の主要指標のいくつかは計算不要になる。具体的には、「自己資本比率」「固定比率」「固定長期適合率」「流動比率」がそれ、流動資産に内訳として当座資産を書き込んでおけば、「当座比率」の計算も不要だ。
この100%BSと、総利益・営業利益・経常利益の3つの利益率を把握することで、極めておおまかにではあるものの、対象企業の収益力と財務の安定性については把握が可能だと私は考えている。
まず大づかみに対象企業の状況を知り、その上で問題となりそうなところ(業界の他社に比べて良い点や悪い点)に注目して、詳細な分析を進めていけば、決算書分析を最小限の時間と手間で終わらせることができる。

決算書分析は、慣れればまったく難しいものではない。それはビジネスの把握そのものといっても良いからだ。
何も専門家がコンピュータを駆使して行うものではなく、なぜ儲かっているのか/いないのかをお金の流れから把握しようとする試みに過ぎないのだ。
その意味で、私は書店の棚に”サルでもわかる””一番簡単な”などといった解説書が並んでいるのが少々奇異にさえ感じられる。こつさえつかめば難しくないのに、いくつかの書籍をめくると余計にわかりにくく、興味がわきにくいように書かれているようにさえ思える。解説書の多さは、その勉強を志す人の数と、挫折する人の数が両方とも多いことを示しているのだろうが、数字の計算やら理屈の解説に汲々として、本来の有用性を伝えられていない本が多いこともまた事実だろう。

もちろん、親しんでいないかたにとって取っつきにくいのは事実だろうが、数字を無視した経営はありえない。「HPO:個人的な意見」紹介文を読む限りは、取り上げられている入門書はかなり良いものであるようだ。これに限らず、簡単で手軽であることにはひとまずこだわらずに、なぜ決算書を読むのか、目的をはっきりさせた参考書が探せれば、決算書分析はもっと身近なものになるのではないかと思う。

Posted by dmate at 2004年09月21日 21:20 | TrackBack
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