2004年08月06日

なんて素敵な恋愛小説なんだろうか〜「ソウルの練習問題」

「朝鮮半島をどう見るか」を読んでのエントリにMAOさんからいただいたコメントにて紹介のあった本。実をいえば関川夏央氏の著書は初めて。名前は聞いていたもののなんとなく手を出せずにいる作家は意外とたくさんいるもので、こうした交流から幅を広げられるのは実に楽しい。

私が行ったことのある外国は、中国、アメリカ合衆国、フランスの3つ。別に国連の常任理事国だけを巡回しているわけではないのだが、たまたまこうなっている。お隣の韓国については、食事はおいしいというし一度いってみたいと妻と話しているのだがなかなか実行に移せていない(ちなみに、私たちは夏になるとほぼ毎週冷麺を食べ、豚肉にはキムチがつきもの、チヂミも大好きで、もちろん本場の味付けは違うかもしれないがきっと韓国の料理を気に入るだろうという自信はあるのだ)。このところ海外といえばフロリダやカリフォルニアのテーマパークにでかけているばかりで、なかなか新しい体験には踏み出せないでいるというわけだ。
来年はドイツでのFIFAワールドカップも控えているし、香港にもディズニーランドができると行かねばなるまい。そんなわけで、韓国を訪れる機会はなかなか訪れない。

本書を手に取ったとき、おそらく著者が韓国を旅行し、ふれあった人々の姿を描く良くできたルポルタージュだろうと考えていた。
たしかにこれはソウルオリンピックを控えた韓国の人々を見事にとらえている、評判に違わぬルポルタージュの傑作だと思う。けれどそれ以上に、本書は実に素晴らしい恋愛小説として楽しむことができる。主人公である著者と、相手の韓国人女性とが重ねるデートは2年間でたったの3回、しかも、手を握るでもない。書かれているのは飲みながらの会話だけ、しかもあっけないほど短い。しかし、これらのシーンが著者の韓国への理解と理解ゆえのとまどい、韓国人女性が初めて”個人”として認識した日本人との出会いと感情の振れをとても爽やかに、鮮やかに伝えてくれる。これらのエピソードでつながれることで、警察による尋問やらバイクの故障、ハングルとの格闘など著者の韓国体験を身近に感じることができる。

この女性が実在なのかどうか気になるところだが、詮索するのは野暮なのだろう。
本書がそこらの恋愛小説と違うのは、二人の男女が惹かれ合い、結びつく課程ではなく、お互いを「日本人」「韓国人」ではなく、一人の普通の隣人として認め、その関わりをスタートしようとするところで終わっているところだ(とはいえ、あまり恋愛小説を読むことのない一読者の私見なので、いくらでも反証できるかもしれない)。このステップを大切にしない恋愛は、かなりの確率でうまくいかないのではないかと思う。どうも最近の日本では、恋愛小説やドラマは”泣くためのスイッチ”でなければヒットしないようだが、こんな奥手な、けれど個々のシーンや短い台詞がしっかりと残る恋愛小説だって良いものなのに、と思う。

 ソウルの練習問題〜異文化への透視ノート
 関川夏央 著
 新潮文庫

Posted by dmate at 2004年08月06日 23:16 | TrackBack
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