2004年08月03日

急がないビール

スローライフなどという柄ではないが、ビールに関していえば世の中みんな急ぎすぎなんじゃないかと思う。居酒屋に座るなり「生4つ!」と”とりあえず”注文し、届くなり半分ほどを一気に飲んで、ようやく落ち着く。夏場のビールはそんな風に消費されている。
その”生ビール”がキリンなのかサッポロなのか、ほとんどの人は気にしていないし、喉の渇きを一気に癒すのに違いがわかるものでもない。メニューの”生ビール”の下に小さく”Draft Beer”とあっても、”生は英語でDraftなんだ”と納得されておしまい。みんなビールが好きなのに、ビールにはなんの関心もないかのようだ。焼酎や日本酒ならば原材料が何で製法がどうで、といったうんちくをかたむける人も、ビールは一種類存在していれば良いかのようだ。

ビール好きにはすでに当たり前のことだが、日本の大手ビールメーカーがつくり、大量に出荷するビールは”ピルスナー”というひとつのスタイルに過ぎない。
ビールといえば夏の暑い日に喉の渇きを止めるために一気に飲むもの、サッカーや野球を観戦したり、キャンプ場などアウトドアで気軽に楽しむもの、ピルスナーはこういった楽しみ方に特にあっていたことも、これほど広がった理由だろう。飲み方がスタイルを決め、主流となったスタイルが飲み方を規定する、この循環をどう評価するかは分かれるところだが、大量生産して大量販売しなければならなかった日本の酒税法が循環を加速したのは間違いのないところだ。

けれど、お酒の楽しみ方はもちろんひとつじゃない。
アウトドアでビールを一気飲みしている人でも、食事ではワインを楽しんでいるかもしれないし、就寝前にちょっとしたつまみと日本酒をゆっくりと楽しんでもいるだろう。多くの人が、ビールには狭い役割だけを与えてきた。そしてその役割はビールではなく発泡酒や缶チューハイのものとなりつつある。
そもそもビールには極めて多くのスタイルがあり、さまざまな場面で楽しむことができる。たとえばスタウトの「ギネス」などはかなり以前から人気が高いが、あのビールを炎天下で缶から一気飲みするわけではないだろう。パブでゆっくりと会話でも楽しみつつ飲むビールだろうし、以前、昼食に入った寿司屋で飲んだギネスはなかなかのマッチングだった。

先日、東京ディズニーリゾートの商業施設「イクスピアリ」にあるビアレストラン「ロティス・ハウス」で買った「バーレー・ワイン」などは、およそ”アウトドアで一気飲みする生ビール”とは対極にあるものだ。
「バーレー・ワイン(BarleyWine)」は文字通り麦でつくったワイン、飲んでみて驚いたが、まさに濃厚なワインを飲んでいるのに極めて近い。甘みと苦み、酸味がうまくミックスされて、ぶどうのような香りまである。たまたま乾しぶどうがあったのであわせてみたが良くあったし、クリームチーズなどでも良さそう。実のところ、妻が読んでいたビールの紹介本にあったのをおぼえていて、試しに2本だけ買ってきたのだが、店頭在庫を買い占めても良かったくらいかもしれない。
あわただしく喉に流し込むビールももちろんおいしいが、時間をかけてゆっくりと味わうのもまたビールの楽しみのひとつだ(もちろん、ビールの部分をお好きな酒に置き換えても同じだろうが)。先日読んでいたワイン愛好家のweblogに”quest to drink”という表現があった。世の中にある全てのビールを楽しむことは到底無理だろうが、それだけに次々と新しい魅力に出会える”quest”は、一生の楽しみだと実感している(もちろん、一生楽しむには健康管理が重要なのだが)。

Posted by dmate at 2004年08月03日 22:42 | TrackBack
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