2004年06月07日

読者は”わかる”喜びを求める〜<快楽消費>する社会

このweblogに来てくださる方の多くがGoogleやYahoo!などの検索サイトからの訪問者だ。weblogは検索エンジンの上位に表示されやすいそうだが、確かにキーワードによってはこのサイトが2,3番目に出てきて驚くことがある。
このところ目だって増えた検索ワードが「なぜ安アパートに住んでポルシェに乗るのか」だ。多い日だと10名以上の方がこの検索語でここを見つけて訪れてくださったようだ。当該エントリーでは必ずしもこの本を誉めているわけではないので、読後に感心して同じような感想を共有できるサイトを探していた方が多かったとしたら、申し訳ないことだ。

私が「なぜ安アパートに〜」にもった最大の不満は、さまざまな消費行動を次々に示しては”これも良いんです、あれも良いんです、全部良いんです”といった消費行動の全肯定に終始していることだ。私は安アパートに住んでポルシェに乗るというアンバランスな消費行動の原理を知りたかったから店頭でこの本を手に取ったのであって、自らを飾るための消費を美徳であると決めつけてそれ以上の議論を無理矢理終わらせてしまう乱暴な本が読みたかったわけではないのだ。
そんな私のフラストレーションをかなり解消してくれたのが本書、「<快楽消費>する社会」だ。

「なぜ安アパートに〜」の辰巳氏にしても最後には「買い物は楽しい」という結論を確認しており、本書のテーマである「快楽消費」にたどり着いているように見える。しかし大きな差は本書が快楽消費という解釈を出発点として消費行動の分析を進めるのに対して、辰巳氏はそこで議論が終了してしまっている点だ。
社会や風俗を分析する本の多くが、次々に代表的な(と思われる)事象を紹介してはなんとなくそれらしい結論を導きだし、読者がそれなりに世の中の仕組みを理解した気になったところでこと足れりとする。「なぜ安アパートに〜」もその一つだった。
本書も著者が後書きで書いているとおり、決して学術論文ではない。むしろ、快楽消費というキーワードで消費行動を解き明かして読者に楽しみを与える一般書であると書かれている。しかし、同じようにさまざまな事例を取り上げつつ消費行動を解説するのでも、そこに理論に裏付けられたしっかりとした芯を通しているのとそうでないのとでは読者を楽しませる力が圧倒的に違う。もちろん、芯など通っていなくても適当におもしろおかしくさまざまな現象を解いてみせる本を好む読者も多いかもしれない。けれど、知る楽しみ、説ける楽しみというものはその背景にある一定の法則や解釈のもととなる理屈が理解できたときにこそ味わえるものだと私は思う。
実際のところ、書店で売れ行きが良いのは「なぜ安アパートに〜」のほうだろう。手に取りやすい装丁と派手な表紙、一見して興味を引くタイトル、そして何より『「捨てる!」技術』という大ベストセラーを送り出した著者によるものだ。しかし、私は消費行動の不思議について関心を持った読者が、本書を手に取ってくれることを切に願う。読書の世界は、ひとつのテーマについて芋づる式にさまざまな本をたどることでより豊かで楽しいものになる。おもしろいテーマをたどるうちにいつの間にか自分なりの見方や考え方を身につけている、そんな読書への入口となれば、「なぜ安アパートに〜」の価値も高まるというものだろう。

 <快楽消費>する社会〜消費者が求めているものはなにか
 堀内圭子 著
 中公新書

Posted by dmate at 2004年06月07日 22:04 | TrackBack
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