2004年06月01日

日本が好きといわれても〜「哈日族」

台湾の若者たちが日本に夢中だという。日本のテレビドラマを見て、アイドルの情報を集め、日本語を学んで日本への旅行を夢見ているとか。「哈日族」と呼ばれる日本大好きな人々についての情報に私が初めて触れたのは、パソコン情報誌の連載記事だったと思う。台湾はパソコンのパーツの一大供給地であり、特に自作派にとっては極めて親しみのある場所だ。経済発展をとげた今では、日本との所得格差も極めて小さくなり自信と活気に満ちているだろう台湾の若者が日本の文化に惹かれているとは、少々不思議な気がしたものだった。てっきり日本など無視してアメリカばかりを見ているのではないのかと思っており、意外な感じがした。

台湾の若者の多くが日本のドラマやアニメ、あるいはJポップを楽しんでいるらしいのだが、こうした状況を「文化帝国主義」として警鐘を鳴らす人々も、もちろんあるようだ。
台湾が1945年までの50年間ほど日本の統治下にあったこともあり、軍事による侵略が文化による侵略に形を変えたという見方は、確かに説得力をもつのかもしれない。私などアジアの諸国との距離や関係を未だにつかみきれずにおり、こうした批判を目にするとすぐに納得してしまいがちだ。
だが、著者によれば台湾から発信される知識人の言葉は、日本にかわって台湾を占拠して統治した国民党政権のもとで優遇された人々のものであり、庶民の実感との間には大きな乖離があるという。また、かつて日本に統治された時代の住民の子供達、孫達が日本にかぶれているのではないか、という見解についても、本省人と外省人の子息の間に有意な差がないということで否定できるようだ。このあたりの事情からは、事実に基づかない思い込みが冷静な議論の妨げとなる好例といえそうだ。

日本のドラマや音楽は、アメリカを中心とする欧米の文化を吸収し、しかしアジアの人々にとって手の届くものとして受け入れられているようだ。いわば、大きなアメリカ文化の亜流としての受容であって、日本の文化そのものが評価されたのかどうかについては著者の主張どおり疑問だろう。日本だけでなく、韓国や台湾、香港といった東アジアの文化が相互に発信しあい、交流するにはまだ少しの時間を要するかもしれない。
とはいえ、長い間ソフトウェアや著作物に関してはアメリカからの輸入ばかりであった日本が、文化を輸出する側になるのは喜ばしいことだ。相手はアジアだけでなく、従来からヨーロッパや一部アメリカへのアニメーションの輸出は始まっている。バラエティ番組やトレンディドラマ、あるいはいわゆるJポップなどが日本を代表する文化として海外に輸出されるのは、正直なところ気持ちが悪い。日本の悪いところばかりが輸出されていくのは私たちにとって良いことばかりではないだろう。また、さまざまな人的接触の場面での日本人ひとりひとりの言動もまた、日本文化へのイメージを作ることになることを軽視してはならない。

さて、日本のテレビ番組やアニメーション、音楽などが海外で受け入れられていることは、やはり誇らしく嬉しいことだ。
だが、困ったことに、私は彼ら哈日族が喜んで見ている日本のドラマのほとんど全てを見ていない。コミックも「存在は知っている」程度だし、アニメはかろうじていくつかを見たくらいだし、Jポップはほとんど聴かない。たぶん台湾の若者よりもはるかに日本を知らないということになりそうだ。彼らの知る日本と、私の日本とはかなりの違いがあることだろう。哈日族の思い描く日本はテレビなどを通じて形成された虚像にすぎない。
日本の真の姿が、彼らの期待通りではないにせよ、彼らの幻滅させるものにはならないようにできるか否かは、私たち自身にかかっている。少なくとも日本に対して好意を持つ人々の存在を、私たちは大切にすべきだ。

 哈日族〜なぜ日本が好きなのか
 酒井亨 著
 光文社新書

Posted by dmate at 2004年06月01日 22:42 | TrackBack
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