2004年05月09日

元気を出そう〜「週末起業チュートリアル」

前作「週末起業」をかなり楽しく読んだので、店頭で見つけてすぐに購入した。著者の経験を元に、ビジネスパーソンが会社から自立するための週末起業のノウハウが豊富に紹介されている。
もっとも、読み始めてしばらくはかなり不安だった。これも著者自身の経験による、会社は社員を都合の良いように扱い社員の都合など考えもしないこと、会社に依存した会社員は唯々諾々とそれに従うしかないことなどが書かれている。

中では成果主義の人事制度は人件費を抑制するためのものと断じ、リストラ対象となったからといって能力がないわけではないと救いの手を差し伸べる。確かに会社は社員一人一人の都合を見極めて異動を発令しているわけではないし、人件費抑制だけが目当ての成果主義導入もありうるだろう。著者のこの決めつけはどうも気になる。会社からの自立を叫ぶ声に力が入るあまりに下手なアジテーションになってしまっている。

会社という存在をどうとらえるかは別として、本書のテーマは別にある。著者は会社員が会社員のまま収入を確保しながら、同時に経済面と気持ちの両面での自立を遂げ「大人サラリーマン」になるべきだとする。ちなみに、生活と気持ちの両面で会社に依存しているのは「ぶら下がリーマン」、気持ちのみ自立しているのは「週末燃焼系サラリーマン」、そして収入面でのみ自立しているのは「資産家サラリーマン」だという。この命名自体に著者の価値観が濃厚に反映されており、辟易とする面がある。
お金と気持ちの両面での自立のために、だれもがもっている独自の特長や好きなことを活かして週末起業を目指そう、というのが前作からの変わらぬ著者の主張だ。本書では、週末起業を実現するための時間管理法や目標設定の方法など、より具体的なノウハウが紹介される。会社でのものも含めた自分の仕事を事業部と位置づけ、リスク分散を図るというたとえは非常に理解しやすい。仕事の中で常々考えていることを人生で実践するだけだ、ビジネスパーソンならば得意な思考方法のはず。

辟易する、と書いたものの、私は本書がダメな本とは思っていない。器用に会社社会を分析してみせるものの、現実には役にも立たない対応策を示して得意げな「上司は思いつきでものを言う」の橋本治よりもはるかに実践的な方策が示されているし、なによりも読後に元気が出るのだ。
著者がいうほど会社員としての生活は悲惨なものではないし、奴隷のように働かされているわけでもない。しかし、会社に生活基盤の全てを依存し、いざ業績が悪化するや切り捨てられるリスクを負い続けるのはたしかに危険だ。自分なりに会社への貢献ができていると思っていても、会社の評価が同じとは限らないし、ましてや会社業績の全てが自分の力で決まることはない。業績が悪化すれば、いずれ会社に依存した生活は脅かされるのは事実だ。
それゆえ、私たちは自分たちのよりどころを会社とは別にしっかりと確保する必要がある。会社につくし、ぶら下がり、あげくリストラによる解雇の対象となって、裏切られたといって嘆くのは私はごめんだ。週末起業は唯一の解ではないが、誰もがチャレンジする甲斐のある選択肢だといえる。私自身、起業というイメージを具体化できてはいないけれど、少なくともこうして会社を離れてweblogを続けることも一歩だろうと思う。
会社に寄りかからず、とはいえ簡単に見放すこともせず、自分の足で立ち上げること。著者がビジネスパーソンに送るエールをしっかりと受け止めたいと思う。

 週末起業チュートリアル
 藤井孝一 著
 ちくま新書

Posted by dmate at 2004年05月09日 12:27 | TrackBack
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