カメラ量販店の店頭で普及型の一眼レフカメラを購入するとき、一番お得感が強いのが「カメラボディ+レンズメーカー製ダブルズームセット」ではないだろうか。カメラメーカーの純正レンズの場合もあるが、だいたいは「28-105mm(70mm)」と「70-300mm」の標準・望遠のズームレンズがセットされたものだ。カメラだけを買うよりも数万円アップでひととおり広角から望遠までカバーできるので、スターターキットとしては十分だ。中には簡単な三脚までセットに含まれる場合もある。
同じ一眼レフでもデジタルになると、撮影面の広さがフィルムと違うために同じレンズを使っても写せる範囲が狭くなる。1.5〜1.6倍ほどに焦点距離が伸びたのと同様になるので、28mmの広角レンズは42mmの標準レンズになってしまう。このため、キヤノンの「EOS Kiss Digital」では18-55mmの専用レンズとのセットや、さらに55-200mmの望遠ズームとのセットが用意されている。これでちょうど、フィルムを使ったカメラでの29-88mmと88-320mmに相当するというわけだ。ニコンの「D70」にも18-70mm(こちらは1.5倍換算なので27-105mm相当)のレンズセットがある。このほかにも店頭ではシグマなどレンズメーカーの商品との組み合わせもあるようだ。
私の周囲で一眼レフカメラを使う人の多くが、この最初に購入したダブルズームセットをずっと使い続けている。追加でレンズを買うのはかなり少数派だ。
カメラの用途はいろいろだが、このセットなら広角から望遠までかなり広い画角をカバーでき、マクロモードなどもついていて花に近寄って撮るといったことも可能なので、ほぼ過不足がなくなる。このためわざわざ別のレンズを購入する必要がなくなるのだろう。
最近では、2本のズームレンズではなく28-300mmといった高倍率ズームレンズを1本だけ購入してつけっぱなしということも多い。高倍率ズームも素晴らしい性能なので1本でほとんどの撮影に対応できるのだが、こうなるとなんのためにレンズ交換ができるカメラを買ったのか、よくわからなくなってしまう。
一眼レフカメラのメリットは、ファインダーで覗いた絵がほぼそのまま写せるというわかりやすさ、オートフォーカスや自動露出の性能が高いこと、写真を撮っている、という感触がより強く味わえることなどだろうが、やはりレンズが交換できるという点は大きい。写真は撮影に使うレンズによって少しずつ表情が違うもので、同じように子供のアップをねらうにしても広角レンズで近くから撮るのと望遠レンズで遠くから映すのとでは全く違う写真になる。もちろん、28-300mmといった万能レンズだけでも相当バリエーションが広がるのは確かだが、これでも超広角撮影や本格的なマクロ撮影、明るいレンズで背景をぼかした撮影など、苦手な分野はある。
そこで問題なのが、「ダブルズームセットの次になにを買うか?」「万能の高倍率ズームの次に何を買うか?」だ。
もちろん、絶対の正解などない。撮りたい写真は人によって違うからだ。けれど、いくつかのパターンは考えられるんじゃないかと思っている。
ひとつめの選択肢は、フィルム面(あるいはデジタルカメラのCCD面)いっぱいに花を写すといった撮影ができる、マクロレンズだ。画角としては50mm程度から180mmといったところまでさまざまだが、望遠だからより大きく写せるということでは必ずしもない。撮影時の被写体との距離が違うのと(当然、望遠の方が離れた場所から大きく写せる)、背景にどのくらいの範囲が写るのか、といった画角の違いだ。定番商品としてタムロンの90mmが有名だが、もちろん各社それぞれ特徴のあるレンズを揃えている。庭や野山で草花を撮影するならマクロレンズは必須といっても良いかもしれない。
ふたつめの候補は、大口径の単焦点レンズだ。こんな表現ではいったい何のことやら、と思われる方もあるかもしれないが、レンズの型番にf=1.4とか1.8などと書かれたもので、簡単にいえば「暗いところでも手ぶれしにくいシャッタースピードで写せる」レンズだ。大口径レンズのほとんどは効果だが、50mmのものは各社ともかなりリーズナブルで数万円程度、なかには1万円を切るものさえある。安いからといって性能が低いことはなく、室内でもノーストロボで写せるなど非常に使いやすい。たとえば子供の誕生会でろうそくを吹き消すシーンなど、ストロボを使っては雰囲気が台無しになるが、ISO800などの高感度フィルムを使ってしかり構えて写せば実に良い感じに撮れる。結婚式のキャンドルサービスなどでも有効だ。
みっつめのおすすめは、超広角レンズだ。フィルムを使うカメラの場合、24mmを超えるレンズで写せる写真は目で見える範囲よりも大幅に広くて実に新鮮だ。近寄って写せるものが多いので、子供やペットにぐっと寄って、しかも周囲の情景と一緒に移すことができるのが超広角レンズの楽しいところだ。デジタル一眼レフではせっかくの広角レンズなのに写る範囲が狭くなってしまうのが難点だが、12-24mmといった超超広角ズームともいうべきレンズも出てきており、これなら18-36mm相当になるので十分広角撮影の醍醐味が味わえる。
私の場合、ダブルズームセットの次に購入したのはふたつめの選択肢、「50mm/1.4」だった。旅行中に誤って標準ズームレンズの方を壊してしまい、修理中に使うために買ったのだ(修理後に同じようなレンズがふたつあっても仕方ないので、性格の違うレンズを選んだ)。買った当時からカメラボディは4台目になるが、友人の結婚式やテーマパークでの夜のパレード撮影などでずいぶんと重宝している。
そして次に買ったのは20-35mmの広角ズームレンズ。あまりに広い範囲が写るので、しばらくはどう使って良いのやらとまどったほどだが、次第にその面白さにとりつかれた。ただしデジタルでは30-52mmとちょっと中途半端な画角になってしまうこともあって最近ではまれにしか使っておらず、ちょっとかわいそうな境遇だ。
その後も順次レンズは増えていき、最初に購入したダブルズームセットはカメラ本体と一緒に父に譲った。ときおりご自慢の庭の花々の写真を受け取るが、活躍してくれているようでうれしい。
デジタルへの移行期にあって、カメラ本体は数年で陳腐化してしまうことも少なくない(1,2年ごとに買い換えるのは嫌なので、D1やD2Hといった最高級機種を選んでいる、というのも事実だ)。しかし、レンズはしっかりとしたものを選べば長い間使い続けることができる。
カメラ本体よりも高いものも珍しくなく、ほしいと思ってもなかなか妻(あるいは夫)に切り出せないでいるアマチュアカメラマンも多いのではないだろうか。同じようなズームレンズを何本も買うのではなく、性格の違うレンズを買い足すことは新しい写真が撮影できることにつながる。ありきたりの表現だが、レンズはお金で買えるが、今この瞬間はすぎてしまえば取り戻すことはできない。もちろん支出できる金額の制約はあるが、その中で最適な選択をするためにも、WEBサイトや雑誌など良い写真を見つけたら、家族にも見せて写真の面白さを共有することから始めれば、意外と簡単にお財布のひもは緩むかもしれない。