このところ、東京では外資系ホテルの進出や老舗のリニューアルが続き、ホテル業界が活況を呈している。私は実はホテル好きで、旅行の際に居心地の良いホテルに滞在できるのが何より楽しみだ。
本書に登場する写真はいずれもモノクロでサイズも小さいものの、いずれも室内やレストランの魅力が伝わってくるものばかり。東京に住んでいるので東京都内のホテルに宿泊する必要などほとんどないことが悔やまれるほどだ。
出張時に泊まる際には、会社の旅費規定の制限もあるし寝るだけのことが多いので、低価格のビジネスホテルであることがほとんどだ。駅に近くて交通の便が良く、そこそこ清潔であれば用が足りるので、オンライン予約サービスで迷わず「10,000円以内」の条件を付けて検索し選ぶ。それでも、ホテル好きの私は到着してチェックインする前からわくわくしているのだ。
旅行などというものがまだまだ贅沢で特別な行事だったころに少年だった私にとっては、ホテルはどんな場合でもハレの場だ。今では出張以外でもホテルへの宿泊はそんなにめずらしいことではない。海外旅行時には七泊八泊とするのも普通のことだ。それでも、自宅を離れてくつろぐホテルは特別な場所であり続けている。
それならば、ときおりは良いホテルに滞在してリラックスすれば良さそうなものだが、私はまだその楽しみには早いのだろうな、と思っている。
もちろん、毎月のように気に入ったホテルに滞在して食事やお酒を愉しむほどの収入がないのも事実だ。正確にはやればできるけれど、他にいろいろなことを我慢しなければならない。そこまでの思い入れはないし、「5万円でホテルに」と思うと「じゃあ、せっかくだからホテルミラコスタに」となってしまう。ホテル好きではあるものの、まだゆっくりとした時間の流れを愉しむというほどには枯れていないわけである。今はホテルに滞在することを愉しみつつも、同時にテーマパークなどのアクティビティも手に入れたい。
そんなわけで、私は本書に登場するホテルのいずれにも宿泊したことがない。
デザイナーが描き出した空間でぼんやりと外を眺め、気が向けばバーやラウンジでくつろぎながら何もしないで休暇を過ごせるようになるまでは、たぶんまだ10年以上はかかるだろう。ホテル滞在の愉しみはしばらく先の自分のためにとっておけば良い。そのうちくたびれてくるだろうし、自分なりに”良いくたびれ方”をできていれば自然と板に付いてくるだろう。今だとちょっと背伸びをしている感じだ。
願わくば、その頃には今よりも気楽に、宿泊代や食事代を払えるようでありたいものだが。
東京のホテル
富田昭次 著
光文社新書