先日のエントリーでも書いたが、サッポロビールが人気のヱビスビールをベースに「ヱビス超長期熟成」のモニター販売を開始した。当初は4月16日にWEBサイトでの申込を開始、先着順に10,000名限定とのことであったが、肝心の申込開始時刻を私は見つけられなかった(結局は10時だったようだ)。お昼休みぎに「もう始まっているだろう」と思いアクセスした私が見たのは、アクセス集中によりサーバを一時停止し、15時に再開するという表示だった。
何せ日本人は「限定」に弱い。土産物でもキャラクターグッズでも、限定と名が付くものはよく売れる。もともと人気の高い「ヱビスビール」の限定ともなれば、競争率が高くなるだろうことは容易に想像がつく。おそらく普段はアサヒ「スーパードライ」か発泡酒しか飲んでいない人も含め、相当多くの人々が申込を試みたのだろう。この日、結局申込ページは再開されることはなかった。夕方には申込を一時中止して改めてサイト上で案内を告知する旨の一文に差し替えが行われた。
私がビールを楽しむようになってから、サッポロビールはおそらくシェアを落とし続けている。もともとはキリンから大きく引き離された2位であったものが、「スーパードライ」の登場により一気にアサヒビールに抜かれ3位へと転落、以後浮上の気配は見えない。
サッポロの主力商品といえば、「黒ラベル」と「生搾り」だろうが、ビールファンにとってのサッポロとはやはり「ヱビスビール」ではないだろうか。その苦みと甘みを併せ持ったしっかりとした味わいは、他のビールを大きく引き離している(現在では、サントリーの「ザ・プレミアム」がさらに上を行くと私は思っているが)。同社が展開した「ヱビスビール、あります」のキャンペーンはヱビスビールのブランドイメージを上手に使い、取扱飲食店との間でWin-Winの関係を築ける素晴らしいマーケティング施策であったと評価でき、今や「ヱビス」はプレミアムビールのトップブランドだ。
これはサッポロにとっては極めて重要な資産だ。したがって、ヒットした「ヱビス黒」や今回の「超長期熟成」など、ブランドを活かした派生商品の展開は(その名に恥じない、うまいビールである限り)実にオーソドックスで成功可能性が高く、ブランド価値をさらに高めることができる好手といえる。
さてこの「ヱビス超長期熟成」だが、WEBサイトによれば店頭販売の予定がない完全限定品とのこと。もともとの「ヱビス」人気に加えて、ここでしか入手できないプレミアム感のある告知が行われたことで、サーバが処理できないほどの申込が寄せられたことを、サッポロビールはどれほど予測できていたのだろうか。
十分な体制を整えられぬままに募集を開始した途端にサーバ処理が追いつかなくなり、サッポロが採った選択肢は仕切直しであった。そして公表された新たな募集方法は、一定期間を設けて申込を受け付け、抽選でモニター当選者を選ぶという方法だった。
この方針の転換は称賛に値するものだと私は思う。早い者勝ちは結局は不公平な方法だ。平日の日中にパソコンに張り付き、インターネットへのアクセスを試みられる人は多くない。たとえ土日であっても、その日に仕事をしているものには同じことだ。誰もが同じように限定ビールを楽しみたいと思っているのに、申し込みすらできないのでは不平が広がるだけ、サッポロビールへの不満はブランド価値の低下につながる。
サッポロビールは貴重な資産であるヱビスブランドを、これからも成長させていく責任を負っている。誤った方法をすぐに転換できる柔軟性をもった同社には、まだまだ再逆転の可能性がある。発泡酒の中でほとんど唯一、まともな味わいを実現しているといっていい「生搾り」も含めた高い品質とブランド力に、柔軟なマーケティング戦略が加われば、きっと同社はビール市場に新風を吹き込んでくれることだろう。