ビールのカテゴリーを作ったにもかかわらず、エントリーがひとつというのも寂しい。もともとおいしいビールに出会ったら書き加えていこう、くらいに思っていたものなのだが、このところ旅行にも行っていないし自宅で飲むのも普通の缶ビール。今日は何本飲んだなどと書いているとアル中のようなのでネタがなかったというのが実態だ。
前回エントリーで、キリン「一番搾り」のリニューアルについて歓迎していたら、新婚当時のわが家の定番ビール、サントリー「モルツ」のパッケージが変わっているのに気付いた。前回の「モルツ」リニューアルは、ちょうど「ザ・プレミアム」の登場と重なったためか、麦芽100%にもかかわらずスッキリ系の味に振られてしまい、定番の地位から滑り落ちた(最近の定番はついに缶が登場したキリン「クラシックラガー」である)のだが、「モルツ」のブランド力に期待して6缶パックを購入した。
さて、飲んでみての結論だが、ここ最近の味の流れなのだろうか、基本的には「一番搾り」と同様の苦みをあまり強調せずスムースな飲み口だ。しかし、「一番搾り」に比べると味のインパクトが弱い、角をすべて取り去ってしまったかのように感じられ、残念ながらこの味ではわが家の定番復帰は果たせそうもない(何か特別な理由でもなければ、私は今度、新「モルツ」は購入しないだろうと思う)。同様の傾向ながら、甘みや苦みをきちんと残した「一番搾り」との味の差は微妙だし、目隠しして飲むと意外と判別できないかもしれないが、やはり大きな差を感じざるを得ない。定番商品のリニューアルの難しさを感じた。あるいは、しっかりとした味わいのビールを好むなら高価格の「ザ・プレミアム」を買ってくれ、というサントリーの意思表示なのだろうか。
ビールの定番商品といえば、上記2種に加えてアサヒ「スーパードライ」とキリン「ラガー」、サッポロ「黒ラベル」ということになるのだろうが、このところビールそのものの旗色が悪い。おそらくこれら定番商品といえど、「麒麟淡麗」「アサヒ本生」といった発泡酒の後塵を拝しているはずだ。販売量が大きく低下している中での定番商品リニューアルは難しいだろう、大きな変化をつけたり強く特長を打ち出すことは、残った顧客が離れるきっかけとなり、一気にシェアを失うリスクを負う。一方で、何もしなければこのまま減り続けることは間違いなく、手を打たないわけにはいかない。結果として、スムースで飲みやすく優しい味にシフトするという選択が残されるのだろう。
定番品というものは特定の好みに応えるものではなく、ブランド認知さえできれば商品そのものの特長など問われない、という側面をもっている。強い個性はむしろ定番であり続けることの妨げになる。しかし、そうなると定番ビールも主力商品の発泡酒も、似たような味に収斂して商品前だけが違う、ということになりはしないか。
ビールが、発泡酒が、という書き方をしているが、これらは原材料に占める麦芽の使用料に応じて課税の基準を変えるための名称にすぎない。日本の大手ビールメーカーが出す発泡酒が”安いスーパードライ”であるからといって、発泡酒がそういうものである必要はないのだ。現に、ベルギー産のものに多い果汁を使ったビールは、扱いとしては発泡酒だ。
その意味では、麦芽とビール酵母、ホップによって作り出される苦みや酸味、甘みのバランスの取れた(もちろんバランスの取れ方はさまざまだ)飲料としての”ビール”や”発泡酒”はもっと個性的であって良いと思う。
家庭での消費量において発泡酒がビールを上回ったそうだが、どちらも似たようなものならば安い方が良い(価格差は主に税金によるのだからなおさらだ)。いっそのこと、定番ビールは全て発泡酒にしてはどうか。どうせ味は同一化していくのだから、主力は発泡酒に絞り込んで、浮いた労力で個性的な飲み物を作ってほしい。値段はそれなりに高くてけっこうだ。
と、思っていたら、「ヱビス超長期熟成」なる限定商品の告知。しかし、「4月16日申込開始」となっているのに早起きしてつないでも受け付けを開始してくれない(何時かは知らぬが受付開始後、アクセス過多でサーバが処理しきれなかったようで現在は中断されている。ちょっとみっともないんじゃないか)。
大量消費を前提とした日本のビール業界は再編の時期に来ている。個性のない定番商品が並ぶのなら、各社が共同で「スーパードライ」と「麒麟淡麗」だけを作り、アサヒとキリンにロイヤリティを払ったって同じじゃないか、と思う。競争の結果、あるいは市場原理によって”売れる”商品だけが残った結果、おもしろみを失いコスト競争力で中国製品に敗れ去った商品はいくらでもある。食品は家電や雑貨とは違うなどと思っていたら、大間違いだと思うのだが。