書店で何げなく手にとって購入したのだが、じつは「ビジネスジャンプ」でマンガとしても連載中でかなり話題になっているらしい。コミック誌などかれこれ15年近く手にしていないので、全く知らなかった。
これを読んだのは、出張帰りに肩の凝らない読み物がほしかったことと、粉飾決算などの手口や会計処理についてわかりやすく人に解説する際の参考になるのではないかと思ったからだ。
私は、もう10年近く社内である研修の講師を務めている。MGといえば「ああ、あれか」とわかってくださる方も多いだろう。ソニー・ヒューマン・キャピタルが提供している、会計の基礎を学ぶためのゲーム形式の研修だ。私の勤務先では、この研修を現場の課長クラスに昇格する際の必須研修の一つに位置付けていたので、一時はかなり受講者が多く上司が神経質になるほどだった。私は教育担当ではなく、新規事業企画やマーケティング、戦略立案といった全く別の部門に所属し、人事部門の要請で出動していた。いわば上司にしてみれば自分の部下を勝手にタダ働きさせられるわけなので面白くなかろう。同じような板挟みにあっている社内講師も多いのではないだろうか。
余談が長くなったが、MGは会社を経営して各種の意思決定を行うシミュレーションで、期が終わるごとにゲーム中につけていた帳簿から決算書を作成する。これにより、経営に必要なさまざまな要素、意思決定のスピードやPDCAサイクル、資源配分のバランスなどを学べる仕組みになっている。そしてこれらをつなぐのが、会計数字を使った戦略構築だ。
経営の結果は財務諸表に現れる。数字を読み取り、計画値との乖離とその要因をつかむとことは、経営戦略立案の基本である。しかし、書店にいけば「良くわかる経営分析」「サルでも読める決算書」といった本が平積みされていることからもわかるとおり、多くのビジネスマンは数字に弱い。私の勤務先でも、この傾向は残念ながら同じだ。
そこで、MGの登場である。ゲームという親しみやすい手法で会計数字と経営のかかわりを体感し、入り口のハードルを引き下げられるこの研修は、計数感覚を磨く第一歩としては実に優れたものだ。
私は教育担当でも経理部所属でもないのだが、複数の社内講師の中でも評判がいいので(自分で言うのも何なのだが、私は社内でもトップクラスの講師だという自負はある)、なかなか引退させてもらえない。
そんなわけで、私は会計や財務などの仕組みについて、初心者にもわかりやすく説明する技術を、常に求めており、この本を手に取ったわけなのだ。
結論からいえば、期待は裏切られることはなかった。本書自体が会計の知識を持たない読者を想定しているだけあって、実に理解しやすい。理屈を解説するのではなく、あるいはあれこれと詰め込むのでもなく、ストーリーの中に無理なく会計上の概念や経営を数字から見る上での留意点が盛り込まれているので、読んでいて飽きがくることがない。
良く見かける初心者向け解説として、読者を代表する若い男女が先生にあれこれと質問をする問答形式のものがあるが、あれをさらに発展させてストーリーを追う読み物としての楽しみが7割、会計や監査についての解説が3割といったバランスになっている。この程度が一番親しみやすい。
研修で私が心掛けているのは、一度にたくさん詰め込もうとしないことだ。多くの事柄について教わるのは、その場での満腹感はあっても長続きはしない。一回の研修では一つないし二つだけ、お土産を持ち帰ってもらえればと考えている。ちょうど、この本が一つのエピソードで一つの概念を解説しているのと同じだ。
会計に限らず、物事をわかりやすく解説するのは難しい。わかりやすいとは端折って教えることではないからだ。重要な点とそうでない点を見分け、相手に理解しやすい比喩やたとえを使って効果的に伝えなければならない。その意味で、このシリーズ、企業内での計数感覚養成のテキストにも使えるほどのできだと思う。
ただひとつだけ、ヒロインの萌実さんだが、言動がどうも現役女子大生には思えない。30手前の、世慣れた、しかも自分の魅力を熟知して利用できる大人に思えるんだけど、ホントは何歳なんだろうか?
女子大生会計士の事件簿 1〜3
山田真哉 著
英治出版
出版元の英治出版というのもなかなかユニークです。
確か、埼玉のアパートから起業した出版社で、その後、ヒット企画を連発している。
ブックファンドという新しい出版ビジネスの可能性も探っているし、目が離せない。
構造不況といわれている出版でもこうした新規参入の成功事例があるのが面白いです。
Posted by: MAO at 2004年04月12日 10:56最近「エクセレントカンパニー」を復刊した出版社だったんですね。
この本は私は大学のゼミで最初に読んだ本でした。
一時は講談社文庫で出ていたのですが、いつの間にか絶版だったことに気付きました。
新作を出すだけでなく、過去の作品を発掘して再度入手できるようにするのも出版不況を打開するひとつの方法だと思います。
Posted by: dmate at 2004年04月13日 21:28