マーケティングの4Pといえばすでに古典的な概念だが、その要素であるプライスについては流通やプロモーションほど重視されてこなかったといえるのではないだろうか。
価格決定の手法として、未だに多くの企業で用いられているのがコストプラス法だろう。ようは、原価に利益を乗せて価格とする方法で、一方的な供給者の論理による価格の決定であるといえる。もう一つが競合他社の同等品と同じ値づけをする方法で、市場の成熟化が進み商品毎の差別性が小さくなった状態ではかなり広く用いられているものではないかと思う。
また、定価から○○%引きといった大幅な値引きが常態化した商品では、かなり以前から価格そのものへの信頼性が揺らぐこともあってオープン価格、すなわちメーカーが希望小売価格を明示しない場合も増えている。店頭での実売価格がそのまま商品の値頃感を決定するため、みせかけの値引率に惑わされる事なく選択できる。とはいえ、未だに高額な商品が大きく値引販売されるとつい魅力を感じてしまうのも事実で、実際に販売されるのとは掛け離れた希望小売価格を設定して業者間の取引価格を低く抑える、いわゆる「高定価低掛率」商売が支配的な業界も多いだろう。
価格設定そのものが企業からユーザーへの、あるいは競合他社や業界に対しての強いメッセージになることは、価格決定に携わるかたの多くが実感として理解できるだろう。競合と横並びで「高定価低掛率」の設定を行うのは、競争のルールを自分から変えるつもりがないことを強く訴えるメッセージなのである。
商品の特性にもよるが、エンドユーザーは次第に自らの価値基準を明確にして商品やサービスを評価しつつある。プライシングの担当者は、商品の値頃感が、その商品がどのような状況や目的で購買されるかによって変わることを理解せねばならないと著者はいう。たとえば同じ食品が同じ値づけで売られていても、日常の食材の一つとして近所のスーパーで購入する場合と、少し凝った料理をするためにデパートの食品売り場に出掛けた場合とでは値頃感は異なる。本書によると、この値頃感を理解することは、ユーザーにとっての価値を理解することにほかならず、価値を価格に置き換えるプライシングはマーケティング活動の根幹に置かれるべきだといえる。ユーザーの求める価値を実現する商品やサービスを実現し、その価値を適切に伝え、最適なプライシングで最適な流通を通じて提供することができれば(すなわち最適なマーケティング・ミックスが実現できれば)、企業の利益もまた大きくなる。
個々の営業場面にプライスの決定権を渡してしまうことは、マーケティング上の重要な意思決定の一部を、販売量の拡大や流通業者など中間顧客との人間関係といった別の論理に委ねることにほかならない。固定的で安定した流通の構築と維持が競争力の源泉であった時代には正しい決定方法であっても、決して永続的なものではない。
著者はプライシングは経営トップが携わるべき課題であると強調するが、これは単にプライシングをマーケティング戦略の一貫として行うべきことを主張しているだけでなく、プライシングが企業の市場戦略そのものと直結して決定されるべきものであるということだろう。
プライシングを考えることは、顧客の価値を考えることであり、これこそがマーケティングの根幹であるといえる。多くの場合、価格決定権は営業部門の既得権益となっているが、ここにメスを入れることなしに、企業の変革は達成できないとさえいえるかもしれない。
本書の内容自体はマーケティングの実務に携わるものにとっては基礎的なものといえるだろう。しかし、この本はいま価格決定権を持っている営業マンや、コスト計算から価格設定をしている事業担当者にこそ、読まれるべきものだと思う。
プライシング〜消費者を魅了する「値ごろ感」の演出
青木 淳 著
ダイヤモンド社
http://www.superiching.com/wwwboard/messages/27505.html billydriverseducing
Posted by: held at 2006年02月07日 01:26