相変わらずデジタルカメラ売場が盛況なようだ。ホンの3〜4年前までは各社の代表的な機種についておおまかな特徴を把握できていたつもりだったが、今ではどんな機種があるのかさえわからず、友人にお勧めのデジタルカメラを、と問われても返答に窮するほどである。
最近私の知人が立て続けに購入しているのは、パナソニックの高倍率ズーム搭載機である。35mmフィルムカメラ換算で420mmという超望遠レンズを搭載していれば、学芸会や運動会での撮影にも、テーマパークでのショーやパレードの撮影にも十分だ。一眼レフを持つ知人にもレンズの選択を相談されるが、やはり勧めやすいのは28-300mmなどの高倍率ズームである。なんといっても遠くの被写体を目前に引き寄せる望遠レンズの威力は絶大なのだ。
けれど、少し長く写真を趣味にしていると広角レンズに手が伸びる瞬間というのがやってくる。どのくらいからが広角なのかは人によっても違うだろうが、ズームレンズの広角端となることが多い28mmや35mmよりも広い画角を持つものといっていいだろう。一眼レフで広角ズームといえば、最近では17-35mmくらいになっている。ただし私が使っているデジタル一眼レフでは、フィルムとCCDの大きさの違いから焦点距離1.5倍相当になってしまうために24mmくらいでないと広角レンズという実感は得られない。
広角レンズの面白さは、単に広い範囲が写せるということではない。たしかに見晴らしの良い場所で風景を撮影しようとすると広角レンズがほしくなるのだが、ただ漫然と広い範囲を撮影しても個々の風景が小さく写るだけで、写真自体は空間の広がりも迫力も感じられない、平凡なものになりがちである。広角レンズの面白さは、近くのものがより大きく、遠くのものがより小さく写る、遠近感の誇張にある。つまり、写したいものにぐっと寄れば寄るほど特長を活かした写真が撮れるのである。一時流行した「鼻でか」の子犬の写真、あれも超広角レンズで寄って撮ったものなのだ。
背景をうまく選ぶことも大事で、大きく写すメインの被写体と背景との対比が面白さを生むことも多い。広角レンズでは、ピントがあった見える範囲(被写界深度という)が広くなるので、背景に無頓着だとごちゃごちゃした印象になってしまう。
超広角レンズといっても、つい数年前まではズームレンズだと17mm程度までしか選択肢がなかったが、最近では12mmからのズームレンズもある。これは上述の通り、デジタル一眼レフが普及するにつれて1.5倍相当でも広角レンズの効果が得られるレンズが望まれ始めたことが要因で、12mmならば18mm相当になるということになる(ちなみに17mmでは25.5mm相当で、この程度では「普通の広角レンズ」なのだ)。
キヤノンが2003年の暮れに「EOS Kiss Digital」を発売し、これまで20〜30万円以上もしたデジタル一眼レフを一気に12万円程度まで引き下げた。ライバルであるニコンも同価格帯でさらに性能の高い「D70」を3月に発売予定で、2004年はデジタル一眼レフが飛躍的に普及する一年となりそうだ。これらのカメラボディには17mmからの普及タイプのレンズがセットになっていることが多く、これでも25mm程度の広角撮影が楽しめる。安くなったとはいっても10万円を超える買い物だけに、追加でレンズをもう一本という人は少ないかもしれない。また、初めて買う一眼レフなら、一緒に買う2本目のレンズは望遠レンズになりがちだろう。
けれど、新たに一眼レフカメラを購入した方には、ぜひ広角側でいろいろなものを撮ってみてほしい。ただ写すのではなく、一歩二歩、近づいて背景とのバランスを考えて写すと、これまで気付かなかった広角レンズの面白さがわかるのではないかと思う。
上に書いた12mmからの超広角ズームレンズは7万円台で購入できる。もちろん高い。カメラ本体とほとんど変わらないではないか、と思うかもしれない。けれど、写真はレンズで撮るもの、これまで撮れなかった写真が撮れるのだから安いくらいだ。ヘビースモーカーなら禁煙して数ヶ月で買える値段、首都圏からゴルフに行くのを2回ほどやめれば良い値段、毎日500円を貯金箱に入れれば半年もかからない値段だ。
かくいう私も、広角レンズのファンである。風景やスナップでも、広角レンズを通してみる世界は実に新鮮で、いくらでも撮影が続けられる。未だに画角に「撮らされている」ようにも感じられるが、なんといっても楽しい。本当に、広角レンズはおすすめなのである。