2004年03月04日

僕も私も無能レベル〜「ピーターの法則」

きっかけは「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」の2月号の広告だった。
1月下旬に購入して、ちょうど2月の上旬にかけて国内の7,8箇所に立て続けに出張の機会があり、機内などで読んでいたところ、この本の広告が目に入ったのだ。

 ピーターの法則 創造的無能のすすめ
 ローレンス・J・ピーター/レイモンド・ハル著
 渡辺伸也訳

私は普段、この手のお手軽に見えるビジネス本は買わないし読まない。ほとんどの場合は千円なり2千円を払って当たり前の教訓話やら自慢話、あるいはたいして役に立たない雑学を仕入れるだけに終わるからだ。しかし、広告の「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する。」という一文の衝撃は大きかった。
私は社員が数千人規模の企業に勤務するビジネスマンであり、役回りとしては中間管理職クラスにあたる。当然、幹部社員や役員との仕事も多く、この法則の実例と出会うことも決して少なくない。また、「○○さんは、昔は相当できる人だったんだけどね。どうしちゃったんだろう」といった話はそこら中に転がっている。おそらく私の勤務先だけではないはずだ。ピーターの法則は、有能なはずの人々が、実際にはなぜ頼りにならないのか、そして”安心して仕事を一緒にできる人”はなぜ少数なのか、を見事に説明している。
著者自身も本文に書いているとおり、この本を読み通すと、世の中が無能者であふれかえるのは避けがたいことであり、自分もいつか無能になるのだという絶望的な気分に襲われる。担当営業マンが嘘ばかりつくのも、上司が何一つトラブルを解決できないのも全てが必然とは、暗澹たる気持ちになるではないか。

著者の回答は、副題にあるとおり無能レベルの前で踏みとどまるよう、自らが有能でいられる段階で戦略的に無能を装うことにある。確かにこうすれば多くの人は有能でいられるし、結果として多くの仕事がスムーズに進み、トラブルも減るように思える。しかし、これはやはりごまかしにすぎないのではないだろうか。
意図的に力を抜くという姿勢は、結果として自らのハードルを下げることにつながり、仕事上の「無能レベル」を引き下げてしまう。人は易きに流れる生き物だ、「創造的無能」を装っているうちに能力の範囲内で仕事をこなすことになれきってしまい、より高い水準へのチャレンジができなくなっているうちに「本当の無能」になってしまうのではないか。
人は成長する。一度無能レベルに達してもそのハードルを越えることは可能だ。
それでもいずれは成長も止まり、無能レベルに達してしまうことは否定できないが、無能レベルは固定的なものではなく変化するものだと思う。
ピーターの法則は、無能レベルに達した(ように見える)人々を揶揄するために便利な概念で、話のネタとしてはおもしろい。しかしそれ以上のものとは思えなかった。
こんな訳で、私はやはりこの手のビジネス本とは相性が悪いままなのである。

Posted by dmate at 2004年03月04日 06:50 | TrackBack
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